前回は2022前半までか。しばらく書いてなかった。
読んで面白かった本はだいたいメモしておくのだが、最近忙しくて要点だけ書いて捨て置いた雑なテキストがたまってきた。隙を見て放出というわけだ。あと最近 嗅覚が鈍ったか嗜好が傾いたか、ちょっとハズレを引く率が上がったのでタイトル数は多くない。タイトル数が少ない理由は、続巻待ちの超長編を多く抱えているとか、明らかなハズレは表に出さないとかしているため。
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この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた ルイス・ダートネル 2015
(原題: "The Knowledge: How to Rebuild our World from Scratch")
引っ越しの移動やら手続きの待ち時間やらで、半端に余ってしまった待ち時間で少しずつ読み進めていた。とにかく時間を潰したいというときにはそこそこ楽しめると思う。
書いてあることは非常に興味深いことばかりで、それぞれのマイクロなシナリオ的には非常によく考えられていて面白いけど、一冊の本として読むにはちょっと具合がよくない、平たく言うと「前の節で書いた通り、とあるけどいつの話だった?」と手が止まることが多くて、読後感が悪い。それでいて徹頭徹尾、表題のとおり"The Knowledge"が書き連ねてあるだけで、節ごとに「べきである」とある。科学文明というのはすべてが独立した事柄でできているわけではないから前後参照が多くなるのは避けられないのだけど、思いついた順に書き連ねたものをそのまま製本したような感じになってしまっている。本にするには、もう少し工夫があった方がいいと思う。前後参照を別タブで開いておけるWebブラウザでならもう少し読みやすかったと思うのだが、それは高望みしすぎか。
あと、変速機(減速機)としての歯車について言及しているのに、無駄歯(hunting cog)に言及していないのは片手落ちに思える。この本で語られている再発展途上の工業力だと、現代の高い工作精度でごまかしている不均等な摩滅に耐える高精度な歯車は作ることができないので、絶対に必要。著者はこの本を書けるほどの調べ物をしていながら、この問題を知らなかったとは思えないので、編集で削除されてしまったのだろうか。
最後、戸田奈津子テイストを感じさせる翻訳についても、もうちょっとなんとかならなかったのだろうか、と思う部分はある。わからないことは辞書引けっていう。英英辞典や専門書でなくて、Weblioにも乗ってる程度の用語、自然科学や工学の用語としてすでに定着している日本語の語彙があるのに。「バッキングハム」「大天使聖マイケル」級の新語を作っちゃう流派でもあるのかな? 表題からして「再構築のしかた」「立て直し方」「取り戻し方」ならよかった(原題でちゃんとRebuildって書いてあるのに…)、このタイトルだと自分はゼロから文明を作るようなイメージを抱いた(ので、邦訳版出版後しばらく後回しにしていた)。
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アリスマ王の愛した魔物 小川一水 2017
短編集。中身は AI近未来SFが2、スペースSFが2、表題作になっているスラップスティックとオカルトファンタジーのあいの子みたいな話で合計5話。
それぞれが独立した話だけど、スペースSFの2話は「天涯の砦」などと設定がある程度類似しているので、それを読んでいるかどうかで話の入り方が変わってくると少し思う(が、大差はない)。短編でも「短編だ!」っていう感じがしないんだよな。長編の小川節を楽しめている人なら「短編集はちょっと…」と思う人でも楽しめると思う。
第5話「リグ・ライト(後略)」は舞台設定がちょうど2024年だが、残念ながら現実の2024年はこんな速度でAIに判断を委ねたりはしていない。2017年に「7年後にこれは無理だろ」みたいな設定であえて2024年を選んでいるのかはちょっとわからない。
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アルテミス アンディ・ウィアー 2018
月面で寡占企業相手に大立ち回りする娘主人公の2分冊大長編スペースSF。
ハインラインの話の運びにだいぶ近いけど、ハインラインみたいに説教臭くなくていいという美点がある。
あとこれは個人の感想だけど、今どきは無理に1冊にまとめるという風潮というか圧力が少なくなったからか、必要なら細かい描写もちゃんとされていていいと思う。1960年代〜1980年代のSFみたいな「細けえことはいいんだよ!」のは実は古典SFの悪いところだと思っていて、そういうものが出てきていて好ましい。
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プロジェクト・ヘイル・メアリー アンディ・ウィアー 2021
「火星の人」みたいな、一人で遠く宇宙に放り出された人の語りの体の2分冊大長編スペースSF。あとがき解説で「バディもの」って書いてあるけど、あんまりこのラベリングは好きじゃない。
アンディ・ウィアーもすっかり人気作家になっちゃったなあ。ビル・ジェームズみたいな感じ。さっき「小川節」って書いちゃったけど、さしずめ「ウィアー節」ってトコか。何かやると必ず1個の失敗がくっついてくる、PDCAサイクルをハムスターの如く回す主人公、最近あんまり流行らないんだよなあと思っていたが、相対的に出てこなくなっただけでしぶとく生き残っている。
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翔んで埼玉 魔夜峰央 1983/2015
もともと短編集みたいなのに収録はされていたけど、このタイトルだけを抽出した版。表紙込み3話96頁で本が出せるのかよ! いい時代になったな! って思う。(デジタル書籍以前の話で、矢野健太郎『雛子バリエーション!』にて「78Pで本が出せるか!」とあったりした) 映画化したからかもしれないね。
どっかの定食屋でその短編集みたいなの読んだ記憶がかすかにあるけど、今こうして読み返してみるとホント面白いな。自分が埼玉に引っ越したからというわけではない。
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令和の科学者 鷹司耀子の帝都転生 プラスチック素材で日本を救う 雨堤俊次 2022
1899年の華族二歳女児に転生しますっていう、まあタイトル通りのラノベ。なろうだかカクヨムだか忘れたけど初出はそれで、そっちと比べてかなり表現と多用されるミームはマイルドになっている。
ひとつの章で20か30くらいの注釈がつくので、注釈が一切なくても完全に理解できる人でないと紙の本では難しいと思う。Kindleだと該当の単語をタップするとオーバーレイで表示されるので、化学と近代世界史を知り尽くしている人以外は電子書籍で読んだ方がいいんじゃないかなあ。自分も紙媒体だったら手が出ない。
おおむねタイトル通り&テンプレ通りのラノベなので、タイトルでピンとくる人は読んでおいていいやつ。
出てほしいが、まあ2巻は出ねえかな…
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タキ井上が教えます! リアルな裏F1 井上隆智穂 2016/2018
忙しかったころライブラリに放り込んだあと存在をすっかり忘れていて、Kindleの中で眠っていたのを最近発見したので読んだ。2016年当時の事情に基づいて書かれているので今読む価値がないということはまったくない。今読んでも面白い。
80年代後半〜90年代のF1を面白く観れていた人ならだいたい楽しく読める本だと思う。大まかに二つ、現役レーサーの頃について語っている部分と、レース業界の事情について解説している部分があって、モータースポーツが好きな人ならどちらか一方は刺さるのではないかな。
暴露話の中でも日本人(の悪口とか失敗)に関することの多くは名前を伏せられているが、記憶力のいい人か文献を持っている人にとっては完全にバレバレである!(汗
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オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど! コイル 2021
(2巻までは〇)
これもタイトルでだいたいわかると思うので説明は略。
3巻まで読んじゃうと駄作だな… 3巻(完結)のあとがきに、出版社は2巻の終わりの部分までのつもりで、でも著者は最後まで出版したかった、みたいなことが書いてあって、まあ2巻である程度キリよく話がいったんまとまっていて、でも3巻は出せました、という旨のコメント。
ぶっちゃけ3巻は急激につまらなくなったので読まなくていいと思う(途中まで読めというのは自分のポリシーではあまりないことなので… 結末を捨てていいという人以外はおすすめしない)。2巻までは面白かったが、3巻はただ文字列を脳に流し込んでそのままどっかに流れていく感じ。2巻まではまあ面白い。コミカライズが最近始まってるらしいけど、まあその辺で打ち切りになるんじゃねえかな…
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綺麗にしてもらえますか。 はっとりみつる 2018-2023
完結しましたねえ…
地元密着お仕事系マンガ(熱海でクリーニング店)。それ以上は何書いてもネタバレになる上に、好き嫌いがハッキリ分かれるだろうから、書籍の宣伝文句を見てくださいとしかいえない… この手の漫画は、すべてに白黒つけてハッピーエンドかバッドエンド! ってものではないので、むやみやたらに人に薦めるのは難しい。『ヨコハマ買い出し紀行』とか『冠さんの時計工房』あたりを履修している人ならだいたいOK。
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小説の類ばかりだけど、いま追ってる漫画類はぜんぶ完結間近でなかなか判断しづらいトコばかり。
アルテ、少女ファイト、バード、乙嫁、宇宙兄弟、ジャジャ あたりは終わりそうで終わらない(というか出てこない)。ラノベの類も、最近はほとんどなろうカクヨムがスタート地点なので、ストックがなくなってから刊行ペースが2年とかになるとさすがに見てられないのよね…
2024年10月28日
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